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  179 読了。 : keity09月03日(火)01:16  [レス]  [削除]
奥田英朗の「罪の轍」。
東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年の浅草で発生した男児誘拐事件をベースに、その犯人と思しき二十歳の青年の視点、事件を追う警察側の視点、さらに副次的な要素となる山谷の旅館の娘の視点で描かれた骨太の犯罪ミステリーだ。北海道の礼文島に始まり、山谷、熱海、新宿、青函連絡船、上野など、移動する風景を巧みなストーリーテリングによって浮かび上がらせていくところなど、松本清張作品に通じるものがある。また、貧困、親の虐待によるトラウマ体験、事件後のマスコミの取材のあり方や庶民感情、警察内部の縄張り争いなど、ここに描写される事象の数々はそのまま現代に重なってくる。
すでに著者には「オリンピックの身代金」(2008年刊)という作品がある。昭和39年、東大の大学院生がオリンピックの建設現場に出稼ぎに来ていた兄の急死をきっかけに、飯場に住み込み、底辺の生活を目の当たりにする。格差社会への憤り、怒りを爆発させ、国を相手に身代金を要求するという話だった。時代背景や多数の登場人物たちの丁寧な描写、ストーリー展開も巧みで一気に読んだものだった。
本作も時代背景は昭和30年代。高度経済成長の総仕上げとして東京オリンピックが象徴的だが、他方では都市への一極集中、経済的格差など、時代の急激な変化による歪みも生じていた。時代の光と影をとらえて、前作とは違ったアプローチで、「罪とはなんぞや」の問いをこちらに投げかけた、とでも書けばいいのかな。途中、何度かこみ上げてきた......。それにしても、奥田英朗は多彩な作品を生み出す作家だなと感心してしまう。
『罪の轍』の初出は小説新潮で、2016年10月号から2019年3月号まで、「霧の向こう」というタイトルで掲載されたが、タイトルは『罪の轍』に改題してよかったと思う。
多分、奥田氏は東京大会開催の決定後から、本作の構想を練っていたのではないだろうか。東京五輪の前年に出版ということも、版元が意図してのことだろう。憶測だが....。
個人的には、来年の東京大会については理解できないままだ。そして、現代もまた様々な問題が山積したままだなと痛感する。
次から次へと取り留めなく書きたいことが出てきてしまいそう。ネタばれになってしまうので、この辺りで止めよう。
最後に、『オリンピックの身代金』はドラマ化され、正直なところ、半分がっかりしたので、これは映像化して欲しくないのだけれど、どうなのかな。一体、誰があの二十歳の青年を演じきれるというのか。特にドラマだと、CMでぶつ切りにされることもあり、つまらない。
また、読者としては安易に警察小説としてのシリーズ化も望まない。とまあ、勝手に書いてしまった。


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